「この夜、はじめて私は小鍋だてを見たのだった。
底の浅い小鍋へ出汁を張り、浅蜊と白菜をざっと煮ては、小皿へ取り、柚子をかけて食べる。
小鍋ゆえ、火の通りも早く、つぎ足す出汁もたちまちに熱くなる。
これが小鍋だてのよいところだ。
「小鍋だてはねえ、二種類か、せいぜい三種類。あんまり、ごたごた入れたらどうしようもない」
と、三井さんはいった。
・・・・・
三井さんのは、平たい笊の上へ好きなだけ魚介や野菜を盛り、それを煮ては食べ、食べては煮る。
(いいものだな・・・・・)
つくづく、そうおもった。
・・・・
「こんなものは、若い人がするものじゃあない」
苦笑して、強いてすすめようとはしなかった。
ところが、四十前後になると、私は冬の小鍋だてが、何よりたのしみになってきた。
五十をこえたいまでは、あのころの三井さんのたのしみが、ほんとうにわかるおもいがしている。」
(池波正太郎 『江戸の味を食べたくなって』)
句読点や「てのをは」の使いかた、改行、漢字とひらがなの使い分け、
さすがだなあ、と感じながら読んでいたのだけれど、
何よりも、小鍋だてがうまそうで、
僕はここ数日、ひとりの夜を楽しんでいる。
底の浅い小鍋へ出汁を張り、浅蜊と白菜をざっと煮ては、小皿へ取り、柚子をかけて食べる。
小鍋ゆえ、火の通りも早く、つぎ足す出汁もたちまちに熱くなる。
これが小鍋だてのよいところだ。
「小鍋だてはねえ、二種類か、せいぜい三種類。あんまり、ごたごた入れたらどうしようもない」
と、三井さんはいった。
・・・・・
三井さんのは、平たい笊の上へ好きなだけ魚介や野菜を盛り、それを煮ては食べ、食べては煮る。
(いいものだな・・・・・)
つくづく、そうおもった。
・・・・
「こんなものは、若い人がするものじゃあない」
苦笑して、強いてすすめようとはしなかった。
ところが、四十前後になると、私は冬の小鍋だてが、何よりたのしみになってきた。
五十をこえたいまでは、あのころの三井さんのたのしみが、ほんとうにわかるおもいがしている。」
(池波正太郎 『江戸の味を食べたくなって』)
句読点や「てのをは」の使いかた、改行、漢字とひらがなの使い分け、
さすがだなあ、と感じながら読んでいたのだけれど、
何よりも、小鍋だてがうまそうで、
僕はここ数日、ひとりの夜を楽しんでいる。
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