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小鍋だて
「この夜、はじめて私は小鍋だてを見たのだった。

底の浅い小鍋へ出汁を張り、浅蜊と白菜をざっと煮ては、小皿へ取り、柚子をかけて食べる。

小鍋ゆえ、火の通りも早く、つぎ足す出汁もたちまちに熱くなる。

これが小鍋だてのよいところだ。

「小鍋だてはねえ、二種類か、せいぜい三種類。あんまり、ごたごた入れたらどうしようもない」

と、三井さんはいった。

・・・・・

三井さんのは、平たい笊の上へ好きなだけ魚介や野菜を盛り、それを煮ては食べ、食べては煮る。

(いいものだな・・・・・)

つくづく、そうおもった。

・・・・

「こんなものは、若い人がするものじゃあない」

苦笑して、強いてすすめようとはしなかった。

ところが、四十前後になると、私は冬の小鍋だてが、何よりたのしみになってきた。

五十をこえたいまでは、あのころの三井さんのたのしみが、ほんとうにわかるおもいがしている。」

(池波正太郎  『江戸の味を食べたくなって』)



句読点や「てのをは」の使いかた、改行、漢字とひらがなの使い分け、

さすがだなあ、と感じながら読んでいたのだけれど、

何よりも、小鍋だてがうまそうで、

僕はここ数日、ひとりの夜を楽しんでいる。


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[ 2018/01/27 10:27 | Comments(0) | 米ぞうの家 ]

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